あの日飲んだビールの銘柄を僕はまだ知らない
ムラズキさん
2018/11/01 投稿
大学の夏休みを利用してフィリピンへの一人旅に出ました。
10日間の日程でマニラとセブ・シティを回ります。
大学では都市計画の研究をしているため、フィリピンでは発展途上の都市が持つ生々しい活気を感じてみたいと考えていました。
そんなわけで特に予定も立てず気の向くままにフラフラとまち歩きをするだけで、あっという間に10日が過ぎて行きました。(もちろん、主要な観光地を巡ったり、現地に住んでいる友人と食事をしたりもしましたが、その時のことはまた別の機会に)
さて、いざ帰国の途につこうと空港へ向かうとなにやら騒がしい様子。
特にリブッキングカウンターの人だかりは空港内に収まらず、空港外の道路まで伸びていました。
不安そうな表情で列に並ぶご婦人にどうしたのかと尋ねると、どうやら滑走路で旅客機が事故を起こしたらしく今日のフライトはほとんどがキャンセルとのこと。
僕のフライトも午前11時から深夜1時頃へ変更となっていました。
お金に余裕もないのでホテルもとれず、今日は空港内のベンチで過ごすのかなぁと考えながら出発ロビーで寝床を確保。
特にすることもないのでひたすら寝て過ごします。
ふと、周囲の騒がしさに目を覚ますとすでに陽は落ちていました。
周囲では飛行機に乗りたくても乗れない方々が騒ぎ立てているようです。
スマートフォンでメールをチェックすると、僕のフライトは翌日の昼過ぎに変更されていました。
いつになったら帰国できるのやらと思いましたがどうにもなりません。
いつしか騒ぎ声はシュプレヒコールのように一体感を持って鳴り響いています。
僕が、そんな様子を眺めながらお夕飯の酢豚を食べていると隣にいた韓国人の若い男性と目が合いました。
お互いに困ったような顔で微笑むと、どちらともなく話を始めました。
出身、職業、趣味、旅の目的などなど。
いつしかお互いの手に缶ビールを持ちながら旅の仲間と出会えた喜びに話は弾みます。(余談ですが、フィリピンのビールは安くて美味しいです。ブランド名は忘れてしまいましたが......)
気がついた時には2人とも寝ていました。
翌朝、硬いベンチの上でガチガチに固まった身体をほぐしながら韓国人の彼と目を合わせると、お互いに困ったような顔で微笑みました。
その時の彼の顔が何故だかとても印象に残っています。
結局、僕は予定より30時間ほど遅れて帰国しました。
空港のベンチは硬く、居住性は最悪でしたが缶ビール片手に語り合ったひと夏の思い出を僕は生涯忘れることはないだろうと思います。
●コメント
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【 広報チーム さいとぅ さん】
旅にハプニングはつきものですが、これは大変でしたね。
なんだか短編小説を読んでいるような気持ちになりました!
ビールの名前はふとした時に知るかもしれませんね。