触れたのは珊瑚ではなく真心でした|みんなの旅話

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触れたのは珊瑚ではなく真心でした

ごりさん

2019/05/22 投稿

 

日本人にはビーチリゾートの印象が強い南国セブ島。
セブ島は高級リゾートホテルの立ち並ぶマクタン島と、セブ島民の生活の中心であるセブシティとに大きく分かれています。
たいていの旅行者が海でのアクティビティやホテルのプライベートビーチが目的なので必然的にマクタン島を選ぶことになります。
セブシティは島民の生活を垣間見れるのは良いのですが、治安面に不安が残ります。

しかしなかには私のような物好きもいて、高級ホテルにプライベートビーチとは無縁の旅行を楽しむものもいるのです。
ビーチで誰にも邪魔されず優雅に過ごすことができるマクタン島に興味はあるのですが、せっかくフィリピンにいるのだからセブシティの喧騒に身を置きたいのです。
喧騒に身を置くだけなら別にどこの土地であろうとあまり関係はないように思われます。
さりとて日本国内では嫌な困った性分なのです。

航空機の中から見るセブ島は真っ青な海にかわいい小島の印象とはまったく異なり、想像よりも巨大でそれほど愛らしくもありませんでした。
おまけに湿度と気温が高く、じっとり不快な汗が流れてきます。
自ら望んで来たのにも関わらず滞在初日から北国を想像したくなるほどでした。
短期間の滞在であったためアジアの喧騒を感じてやろうと意気込んで街中に出てみたものの日頃の不摂生がたたり、ホテル近くのショッピングモールから出たくなくなってしまいました。
小一時間ほどしてホテルに戻りエアコンの効いた部屋のベットで寝そべると、自分が何をしにここまで来たのか分からなくなってきました。

そうだアジアの喧騒を感じてと思い至ったものの体を動かす気力もなく、ビーチに行くほうが正解だったような気さえしてきます。
はて滞在日はいつまでだったかと考えていると、ここは観光地のホテルなんだと気付きました。
このホテルの宿泊料は安いのです。安いのですがホテルはホテルだけあってプールが存在していました。
いや観光地のホテルだからプールがあるのか、ホテルというものにはそもそもプールがあるのか。
マクタン島のビーチにタクシーで50分かけて行くよりプールで泳ぐことのほうが賢明であろうと自分に言い聞かせてプールに入る決意をしました。

ビーチリゾートを避けたつもりが、何故か水着はスーツケースの中に。
これほど泳いだのはいつ以来かと考えているうちに2時間も経っていたのです。
体の疲れも水の浮力で麻痺していたのかもしれません。
貸し切り状態だったプールも時間の経過と共に英語や中国語が聴こえ始めたため、名残惜しさもありましたが部屋に戻りました。

戻ったまではよかったのですが、プールに入る前よりも体が重くベットより一歩も動けなくなってしまいました。
倦怠感だけでなく悪寒もあり横になっているだけでは治りそうにありません。
フロントに問い合わせると看護師がいるというではないですか。
早速診てもらうと38度近くの発熱があるため安静にして様子を診てほしいとのことでした。
しかし帰国日のことを考えると悠長に寝ていることもできない状況であり妻と共に病院に行くことにしました。

タクシーで日本語の通じる病院に向かい、診てもらえないか受付に尋ねました。
受付の女性は興味無さげにあっちと救急外来に手をふりました。
期待はしていなかったのですが、驚いたことに現地の日本語通訳がつきっきりで診察内容を説明してくれるというのです。
海外旅行保険に入っていると日本語通訳のサービスを受けられるらしく、英語に自信のない私には心強い見方が現れたと思っていたのです。
日本語の現地通訳の方は30代半ばくらいの男性でケイさん(仮名)と名乗りました。

ケイさんは日本語が分かるし説明もしてくれます。そう説明してくれるのですが、こちらが理解できないのです。
「あー いしゃ ストマック 痛い ヴォミット オッケー 」という具合にルー大柴風なのです。
そして、いしゃのイントネーションがおかしい上に大部分が英語なのです。
普通医者は、い→しゃ→ としか発音しないと思うのですが、ケイさんは、い↑しゃ↓という独特なイントネーションです。
何度聞いてもイーシャとしか聞こえません。

救急外来の主治医らしき医師が私に病状の説明をしてくれるときもケイさんは横に立って通訳をしてくれる のですが、医師の英語を直接聞くほうが学校で行った英語のリスニングのようで聞きやすいのです。
不思議なものでまったく理解できないと思っていた英語でもそのうち雰囲気で分かった気になるのです。
あくまで分かった気になっていただけですが。
結局私はデング熱を疑われて入院になりました。
流暢な日本語でないにしろ私はケイさんがこの場にいてくれたことに感謝しています。

入院直後も「トゥモロー。いしゃ。退院。オッケー」と退院の予定を伝えてくれました。
こちらが理解したことが分かるとケイさんは屈託のない笑顔を向けてくれます。
伝わって嬉しいという気持ちがありありと表情から読みとれるのです。
国内の医療保険の契約により海外で入院したときも給付が受けられるため医師に診断書の作成を依頼したいという面倒なお願いをしたときはケイさんの理解に時間がかかりました。

入院治療費は全額海外旅行保険で賄われるということと、国内の医療保険特約で海外の入院であっても一時金が支払われることと混同したのでしょう。
しかし、本部に電話を掛けながら何度も確認してくれる姿を見て、ふとプロフェッショナルと呼ばれる人はこういう人なのだろうと思ったわけです。
特に理由があったわけではありませんが、仕事に向き合う姿勢がそう思わせたのかもしれません。
全てがスムーズでなくともいいのです。
解決しようする意思と粘り強さが彼の全てを物語っているようでした。

私が理解できずに間の抜けた顔をしているとケイさんは何度も言葉を変え、ジェスチャーを交え必死に伝えようとしてくれました。
額に汗しながら何としても理解してほしいという気迫が凄いのです。
細かな入院手続きや退院まで熱心に説明してくれたケイさんに感謝のつもりでチップを手渡そうとしたが受け取ってもらえませんでした。
ケイさんは日本語を勉強しながら仕事してるからと話していましたが、とてもそれだけでは説明がつかない熱意と相手を飲み込んでしまうのではないかという雰囲気がありました。
実際私はケイさんとつたないコミュニケーションを図るうちに圧倒的な存在感に飲み込まれていたのです。
そしてケイさんの心からの善意というものに触れた気がしたのです。

今となっては、チップの習慣のない日本人がケイさんにチップを渡そうとしたことは彼の誇りを傷つけてしまったのではないかとさえ思えます。
セブ島滞在では入院の記憶が色濃く残っていますが、ケイさんに出会えたことで決して悪くない思い出となりました。
またいつかセブ島に行きたいと思います。

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旅トクアドバイス

海外旅行保険は皆さん確認されると思いますが、国内で入られている医療保険も特約を確認されるといざというときに助けになりますよ。

 

【 広報チーム さいとぅ さん】

海外旅行先で病院、わたしも体験があります。
具合が悪いプラス言葉のこともすごく不安ですが、素晴らしい方に出会えてよかったですね!

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