留学が大きな自信に。研究を通して明確になった将来像。

跡部蒼さま
順天高等学校に在学中。(2025年時点)
2024年、文部科学省による官民協働海外留学支援制度、トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムにてアメリカ・ニューメキシコ州に留学。
標高3000mにある研究所で雷の研究を行い、雷のデータを分析した。現在は大学進学を目指すと同時に岩石の研究にも興味を持っている。
違うの?と思ってからは衝撃的だった
――トビタテ!留学JAPANでの留学先を教えてください。
跡部さま:アメリカのニューメキシコ州にある大学に付属している研究所が主な活動場所でした。
――どんな目的でその場所を選びましたか?
跡部さま:私自身がずっと雷の研究を日本でしていて、「日本以外の場所で雷の観測をするとどんな違いがあるのか」を研究することが目的でした。
その研究所自体が標高3000mくらいの山の上にあったんです。当然雲に近いので大気による影響を受けないで観測することができるということでその場所を選びました。
――研究の内容はどういったものでしたか?
跡部さま:雷というものは私たちの生活にすごく身近な存在で大半は「分かっている」と思われがちなのですが、実は「分かっていない」こと、まだ解決できていないことがたくさんあると言われています。
ひとつには発生原因があります。雷の発生原因はよく静電気の現象で説明されると思うのですが、それだと雷を起こすにはエネルギーが足りないということが最近の研究で分かっています。
では雷にエネルギーを与えている別のものがあるのでは?というところで、私が出した一番有力な説が、宇宙からやってくる放射線が雷の発生に影響を与えているのでは?という仮説です。その仮説を検証することが今回の目的でした。
――その仮説を証明するにはどういった結果が必要なのでしょうか?
跡部さま:雷雲からガンマ線という放射線の一種が観測できれば仮説を証明することができると思います。そのガンマ線を観測しに行く、ということが今回の研究内容です。
――なぜ研究対象が雷だったのでしょうか?
跡部さま:小さいころから自然科学が好きだったこともあります。中学の頃に進路相談があってどういった進路がいいかと考えたときに、やっぱり小さいころから好きだった理系の道に進みたいなと思いました。
そんななかで当時「探求」の授業があって、いろんな理系のことを調べていくうちに雷の発生源が自分の思っていたことと違うことが判明したんです。
え、違うの?と思ってからはもう衝撃的で。そこがきっかけだったと思います。
――身近なものほど実は知らないことが多いですよね。そんな幼心に衝撃がはしった雷ですが、どんなところに魅了されたのでしょうか?
跡部さま:私がやってる研究は特にデータを解析して議論することが多いのですが、やっぱりプログラミングのところでたくさんエラーが出たりします。
そういったときに「こうかもしれない」「これが違うかも」と議論や考察をした結果、コードがうまくいったり思ったようなグラフが出たときが本当に嬉しいです。
目に見えないものに対して何かを考えることが私にとっては難しいことだと思っていたのですが、今思うとやってみたら意外と私にもできるじゃん、と思えるようになりました。
――そういう成功の積み重ねは自信にもなりますよね。具体的なエピソードはありますか?
跡部さま:留学が一番大きいです。今回の留学で、いろんな人の力をかりながらガンマ線を観測する機械を自作しました。自作というより組み合わせたに近いのですが、機械をつくるには多くの部品や知識が必要で、無理だと思っていたけどやってみたらできた、という成功体験でした。
プログラミングもそうで、はじめはいつまでたっても読める気もしないし書ける気もしなかったのですが、教えてもらうと「あーなるほどな」と理解できるようになってきて今では多少のコードなら自分でも書けるようになりました。
――それはすごい成功体験ですね。現地での1日はどんな流れでしたか?
跡部さま:滞在する場所も山の上にある研究所内だったので、とにかく研究の1日でした。前日のデータを解析したりとか雷の観測ができているとか。
午後は夕方になるとわりと雷が発生するので完全に研究所内で観測、解析をする1日でした。
――山の上なので出かける場所もないですよね。そのぶん多くの時間を雷に費やせたのではないでしょうか?
跡部さま:そうですね。もう雷の迫力が違いました。近さもそうですし、その場所は雷の数自体が多かったのでずっとゴロゴロなっていて本当に楽しかったです。
雷がなっているときにデータが動くので、ちゃんと雷と連動して波形が動いたりすると「おー!ちゃんと動いてる!」とみんなで盛り上がりました。

雷の精度はかなり広範囲で不確実性が多い
――雷のデータとはどんなデータなのですか?
跡部さま:たくさんあるのですが、私が使っているデータは「電場」というものがあって、そのデータの変動が雷の発生を裏付けるデータになります。
それとガンマ線の増加グラフを合わせて、雷の発生を裏付ける私の仮説が正しいのかどうか?を判断できればと思いました。
――実際にそのデータから跡部様の仮説は立証できたのでしょうか?
跡部さま:雷が鳴ってるときにガンマ線の増加の変動自体は見られました。ただ、すべての雷に対応しているわけではなくて・・・基本的に今までの研究も含めて、その宇宙線が関連している可能性はある”だろう”というところまではきているんです。
ないとは言いきれないけどそれを裏付ける「絶対にこれだ」というところまでには何かが足りないなという感じで、それをずっと追っています。
――未だに追っているんですね!まだ何かが足りない、とのことですが何が足りないのでしょうか?
跡部さま:すべての雷に対応していない理由もそうですし、変動と言っても大きなものもあれば小さいものもあります。
自作の機械のほうは自作ゆえの個体差みたいな部分があったので、その個体差をなくす方法などがまだ確立できていないなという印象です。
――これだけやってもまだまだ足りないピースがあるのですね・・・例えばその仮説が証明できた、となったら何かに使いたい、活かしたいという想いはありますか?
跡部さま:そうですね。やっぱり2週間では言いきれない部分もたくさんあります・・・
できればの話で、まだまだ全然分かりませんが、例えば雷の予測精度をもっと正確なものにできるのではと思っています。
今の雷の精度はかなり広範囲で不確実性が多いんです。雷は一撃で燃えてしまったり大きな被害に繋がるので、それらを防ぐというところに使えるのではと思っています。
自分で考え、自分と向き合う

――ここからはトビタテでの留学に行ってからの変化などを聞きたいと思います。実際に海外に出てみて率直な感想はどうでしたか?
跡部さま:一人で海外に行くことが初めてだったので、不安とドキドキでいっぱいでした。トランジットもあったので間違えたらどうしようとか、ここで合ってるのかなとか。
でも大きな事故もなく到着したので、一人で海外に行って研究する、ということはとても大きな自信になったと思います。
特に今回のトビタテ!では初めから全部自分で考えて、計画して、実行してという全部自分でやるというプロセスが大きな学びになりました。
――高校生でその経験ができたのは本当に大きいですよね。
跡部さま:はい、特に挑戦とかチャレンジへのハードルが下がったなという点はすごく感じています。やっぱりひとりで海外に行って山の上で研究する機会なんてまずないと思うので貴重な2週間だったなと思います。
――かなり自力みたいなものがついたのでは?
跡部さま:そうですね。トビタテ!への応募書類にいろんな項目があって、将来どうしたいか?とか日本のどういう良さを海外に伝えたいか、とか。
でも当時はなかなか書けなくて、だからこそ自分でいろいろ考えたりとか、自分と向き合う作業をしました。今までそういうことをしてこなかったので、そんな時間をもてたことも良かったなと思います。
――私も同じ年齢のときに日本の魅力はこうだから海外の人にこう伝える、なんて考えたことなかったです。(笑)現地では何か大変なことなどありましたか?
跡部さま:アメリカは州によりますが21歳以上が成人として認められる州が結構あります。当時、私は16歳で身長も低くて日本人ですし「本当に大丈夫?」と心配されたりして行動を制限されてしまうことが多かったですね。
ひとりでバスに乗っちゃダメ、まで言われて行きたいところがあるのに移動できないなんてこともありました。でも結局送ってくれたのでみんな本当に優しかったです。
若い研究者が研究の一歩を踏み出すきっかけに

――跡部様はSakura Particlesという活動もされているかと思います。こちらについても教えていただけますか?
跡部さま:またガラッと変わるのですが、研究の内容自体は大きな山や古墳、ピラミッドなど大きな建造物に対して、内部構造が気になるけど壊せない場合があると思います。
そういう物体に対して壊さずに中を見るにはどうしたらいいかと考えたときに、壊さず中を見ることができる機械を作ろうということをしています。
こちらも宇宙線が関係してくるのですが、放射線の一種にミュー粒子というものがあります。ミュー粒子はほとんどの物体を通過することができるのですが、物体があるとぶつかって消えてしまうことがあります。
その現象を利用すれば、放射線が来てるからそこは空洞だ、逆に放射線が来なければそこには何か物体があることが分かります。
こういったことが逆算できるのでは?という技術で、この技術自体はすでに存在しているのですが、その機械がとにかく高価なんです。
なのでもっと手に取りやすい機械を作ることができれば、中学生や高校生でも使うことができて多くの人が研究することができるなと思っています。
――壮大な研究ですね。この活動でも海外に行かれていますよね?
跡部さま:はい、スイスに行ってきました。そこでは自作した安価な機械が正常に動くかどうかをテストしてきました。
――その機械は今後どうなっていくのでしょうか?
跡部さま:若い研究者のための機械になればと思います。
宇宙に興味をもっている高校生、中学生は一定数います。でもやっぱりその年齢だと何をしていいか分からないとか、できないと思って諦めちゃう人もいると思います。
そういう人たちにこういう安価なものもあるよ、こういうものも使えるんだよ、と自分でもできるんだよ、と高校生中学生が研究の一歩を踏み出すきっかけになればということが目標です。
――宇宙の研究と聞くと壮大すぎて何からやればいいか分からない人たちがきっとたくさんいますよね。その第一歩がこの機械になったら嬉しいですね。
跡部さま:はい、より宇宙や宇宙の研究というものに興味をもってもらえたら嬉しいです!

興味があることがあればやってみてほしい、チャレンジしてほしい!
――そんな若くして数回、海外に渡っている跡部様ですが、その経験があったからこそできるようになったことはありますか?
跡部さま:留学を通していろんな世代、大人の方や違う国籍の方と話す機会が増えたことで、自分の興味の幅が広がりました。それによってまた新しいアイディアがでてくることもあって、自分の将来に対していろんな考え方をもてたことは大きかったなと思います。
高校入学当初は、やりたいことはあっても漠然としていましたが、いろんな方と話していくうちにその人のそれぞれの経験を聞くことができますし、そのなかで自分なりの将来像みたいなものが少しずつはっきりしてきたと思います。
――それは大きな転機とも言えますね。精神的な部分でも違いが出てきたのでは?
跡部さま:自信という点ではやっぱり大きいと思います。
もともと自信があるほうではなくて、何かに挑戦したくても一歩引いてしまう自分がいたのですが、留学や研究を通してやってみればできるし、何か失敗をしてもあんまり失敗と思うことは少なくなった気がします。
もちろん成功しなくてもそれはそれで、そこから学ぶことが多かったですし、学ばなくてはいけないという思考になってきました。
あとは海外ならではかもしれませんが、発言しないと何も始まらない、ということを感じてからはいろんなところで前に出るということもできるようになりました。
――高校生とは思えないくらい大人ですね。それくらい貴重な経験をしてきたんだと思います。今後について何かやりたいことはありますか?
跡部さま:いろいろありますが、大学に入ってからは少し雷からは一度離れようと思っています。
というのも、小さいころから石を集めるのがすごく好きでした。どこかに行ってもお土産を買うのではなくてその土地の石を持って帰ってくるみたいな変わった子どもだったんですけど(笑)
――まさか雷の次は石の研究ですか?
跡部さま:はい!岩石の年代を調べる研究をやってみたいです。岩石の情報を読み解くような。どんな物質が含まれていてどんな種類があるのか、どういう生き方をしてきた石なのか、とか。
例えば南極の石とインドの石がすごく似ていて、中の物質も一緒じゃない?ということになったら、実は昔はひとつの石だったのではないか、と考えるとすごく面白そうだなと考えています。
――研究というものがかなりお好きなのではと感じたのですが、やってみたい研究が他にもあったりしますか?
跡部さま:フィールドワークはとにかくやっていきたいです。山とか川とかいろんな自然を見に行って地質調査をしたりとか。一度でもいいので南極の地質調査をしてみたいですね。
――やはり研究にはこだわりがあるのですね。最後に、これから海外に出たいと思っている方にメッセージをもらえますか?
跡部さま:これは留学に限ったことではありませんが、もしも少しでもやってみたい、興味があることがあれば、是非やってみてほしいです!
最初は嫌なこととか心細いこととかもあると思いますが、そのときは大変でも後々振り返ってみればそうでもないと思えるようになりますし、そのおかげで今の自分があるくらいに思えるようになります。
留学って聞くとハードルが高いように感じますが、やってみると意外と思っていたほどではなくて、「難しそうと思い込んでいただけ」だと分かると思います。
だからこそやりたいことがあれば勇気を出してやってみる、ということにチャレンジしてほしいです。
――跡部様、本日はありがとうございました!

文部科学省 トビタテ!留学JAPANとは
トビタテ!留学JAPANは、文部科学省がオールジャパンで取り組む留学促進キャンペーンです。民間寄附による返済不要の奨学金を給付する官民協働海外留学支援制度「新・日本代表プログラム」をフラッグシップ事業として展開しています。 第2ステージ(2023~2027年度)においては5年間で高校生、大学生等5,000人以上の留学支援を目指しています。私たち外貨両替ドルユーロはこの活動を応援しています。












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