千葉県市川市サッカー協会副会長 石原孝幸さま

子供たちがどこに行ってもサッカーを楽しめるように。そして人として成長できるように。

石原たかゆきさま

石原孝幸さま

市川市サッカー協会副会長。第四種(小学生)を対象に、大会、審判研修、指導者研修などを運営。子供たちのサッカーと教育の環境を良くするために、という想いで市議会議員としても活動。

市川FC(トレセン)ではドイツ遠征を担当し、選手たちと帯同している。

サッカーと教育の環境を良くすることが命題

――現在の主な活動について教えてください。

石原さま:昨年から市川市サッカー協会の副会長をしております。副会長ですので市内全体のことを考えなければならない立場ですが、昨年まで約25年間、第四種委員会の委員長だったこともあり、小学生の部を中心に活動しています。

1年生から6年生までの各カテゴリーの大会運営や、あとは子どもたちのサッカー教室を開催したり指導者講習会も1年に9回やっています。ここに関しては常に勉強していかなくてはいけない部分です。

それから審判の研修などを20年ほど審判委員会副委員長としてやっておりました。少年に特化したイベントを運営しているというかたちです。

――サッカー協会第四種委員会について教えていただけますか?

石原さま:一種は一般、二種が高校、三種が中学、四種が小学生と年代で分かれています。

――教員をされながら市議会議員、そしてサッカー指導者へという経緯がありますが、これに関してはどういったきっかけがあったのですか?

石原さま:60歳で校長としてのキャリアを終えて、2年間初任者指導をしました。

そのあと当時のボスと相談しまして、サッカーに対して影響力を持てるようどちらかが議員になったほうが良いのでは?という話になり、様々な条件から私が選挙活動をはじめて当選させていただいたという流れです。

――ではサッカーのために議員を目指されたのですね。

石原さま:一番はそうですね。それとやはり教員でしたから子どもの教育環境を良くするためにという想いもありました。そこを命題のように感じて取り組んでいます。

20回ミスをしても1本通ればいい

市川FCの選手たち

――石原様が関わっている市川FC(トレセン)としても大会などに出場されるのでしょうか?

石原さま:県の大会にこのチームとして出場します。頂点に立てば全国大会に行くことになります。ただ、それだけを目標にしてしまうと「ただ勝つだけを追求するサッカー」になってしまいます。勝つことも大切ですが、人としての成長というもっと大切なことも考えなければいけないので、そこは難しいところですね。

――小学生という年代は特にそうだと思います。結果は大事かもしれませんがそこに至るまでの過程というところも育てたいですよね。

石原さま:高校サッカーと同じことをやるのでは小学生年代では成長が難しいと思います。

ドイツに行くとどんなに能力の差があってもパスを繋いできます。20回ミスをしても1本通ればいいというスタイルです。

――リスクはあるけど失敗してもいいからチャレンジするんだと。

石原さま:そうですね。あとは考えてサッカーをする、というところも育つと思います。そういった前提があるのでドイツのチームと対戦すると大差をつけられることもあります。考えてサッカーをするという点では向こうのほうが上ですから。

あきらかに、技術的にも能力的にもこちらの方が勝っていると思っていても、試合中何回かフリーでシュートを打たれる場面を作られてしまいます。そういったシーンを目にすると驚かされますね。正に20回ミスしても1本のパスが通った瞬間です。

――自分たちのサッカーに明確な意図があるということでしょうか?

石原さま:ドイツではとりあえず蹴っておく、というプレーがありません。そういったところを自分たちも追求していかなくてはと思っています。

チームとしてはそういった方向性を持ちながら、選手個人への指導もありますから、そこは一貫していなければいけません。

――そのなかでも微妙な差がでることもあると思います。その点に関してはどうでしょうか?

石原さま:そこは確かに難しいところです。選択肢がいくつかあったとして、どれが良いかというところは子どもたちも分かってくると思います。

なので「いろんな指導者がいる」ということも、この年代で分かってくるはずです。

――子どもたちも最初は混乱するかもしれませんが、そこも考えるというところで鍛えられるかもしれませんね。

石原さま:そうだと思います。他の試合を見ていて、ドイツだったらこのプレーはしないな、という場面が多いです。簡単に自分たちのボールを蹴り上げて相手ボールにしてしまいます。

ドイツでは相手にボールを奪われることはリスクなので、そうならないためにどうすればいいかということを優先的に考えます。

――小学生という年代でサッカー脳が鍛えられていますね。

石原さま:はい、確かに優先順位はまず最前線ではあります。でもそれはフリーの状態であるときだけ。そうでないなら斜め前、それもダメなら横、そうでなければ後ろ、この4段階を常に考えています。

日本の場合はそうでない場面が多いので、市川FCでもどうすればそこが身につくのかを一生懸命コーチ陣が指導しています。

――プレーのひとつひとつに必ず意図をもたせるということですね。

石原さま:フリーの人を探して、相手守備陣の背後をつく。言葉では簡単に言えますがプレーしながら考えて実行するまではそう簡単にはいきません。でもドイツの子どもたちはそこまでが早いんです。

――向こうでは予め優先順位が決まっているからこそですね。

石原さま:習慣化されていますね。あいているところに動く、そこにボールを運ぶというプレーが身についています。

子どもも指導者も学びに行く

ドイツ遠征

――1994年からドイツ遠征をされています。こちらはどんな目的でされていますか?

石原さま:始めた当初は日本がワールドカップに出ていない時代でしたから、ドイツに行くことが目的になっていました。ドイツのサッカーを肌で感じることが大事というようなところがあったと思います。

――確かに当時はそれでもすごく貴重な経験ではありましたよね。

石原さま:そうですね。そのあと何年かバイエルン州サッカー協会が主催するサマーキャンプというかたちをとって、10個くらいあるコテージにドイツの子どもたちと日本の子どもたちを混ぜて宿泊していました。

一緒に生活もするしトレーニングもするし試合もします。自ずと子どもたちはサッカーを通じて友達になりますし、そういったことを肌で感じられたと思います。

それがドイツのバイエルン州インツェルという場所で行われていて、そのあとローゼンハイム市に場所を移すのですが、そこでも同じようにサッカーだけでなく湖に行ったり山に行ったり、そういった楽しむことを目的にしていました。

――そこからサッカーに焦点をあわせていくことになったのはどのような流れだったのでしょうか?

石原さま:まずドイツに行くことができる人数も少なかったりして、チームが組めないという問題がありました。しかし、ここ数年で遠征に参加する人数も増えてきたので、それをきっかけに試合をやりながら強化を目的に切り替えていきました。

――より育成を意識した遠征になっていくということでしょうか?

石原さま:強化と言ってしまうとただ強くする、といったイメージになりがちですが子どもたちのサッカーの成長を促していければいいと思っています。

一番大きいのは、現地でコーディネーターをしてくれている方がドイツでもコーチをしている方です。そうなると日本の選手たちに足りないものや、こういうトレーニングが必要だということを提案してくれます。

子どもも指導者も学びに行く、というところが非常に強くなりましたね。

ただ、ドイツの文化にも触れてほしいので、ミュンヘン市街やローゼンハイム市街を観光する際には子ども達だけで活動させたり、移動手段に敢えて公共交通機関を使ったりして、生のドイツに触れることも大切にしています。

――市川FCとしてはどんなチームでどんなサッカーを目指していますか?

石原さま:とにかく一人ひとりが強くなる、どこに行ってもサッカーを楽しむことができるという選手たちになってくれたらと思います。

そして人間として成長していく、ここをなくしてサッカーが成長することはないと思います。

ここをベースにしながらサッカーを通じて成長してほしいですね。

――この年代だからこそ人としての成長そしてサッカーの成長があると。

石原さま:そうですね。やはり自分で考えて何かができる子どもに育てていかなければと思うんです。自分で考えると言っても「何を見るのか」という部分も大事かなと思います。

「ボールを持ったら顔を上げて」と言いますが顔を上げて何を見るのか?それは先ほども言った前、斜め、横、後ろを見なきゃいけない。そして味方や相手の状況は?スペースは?

そういう細部にこだわってやっていけるかどうかが、この市川FCでは大切になってくると思います。

――何を見るかという視点ではドイツ遠征で見るものも大きく影響してきますか?

石原さま:ドイツでは前の日にできなかったことを次の日にやる、そして試合をするというかたちになります。

7回の練習試合を毎週やろうと思うと7週間かかりますが、ドイツ遠征では7日間でできます。しかも相手はずっと考え続けるサッカーをしてくれますから簡単には勝てませんし、気を抜いたらすぐに失点につながります。

そういう相手とやり続ける、集中的にやるということは大きいと思います。

自分も大切にするし相手も大切にする

現地選手との交流

――石原様ご自身も指導をする場面があると思います。どんな意識をもって指導されていますか?

石原さま:私は市川FCとは別に自分のチームを持っています。そこでは基本的なことですがサッカーを好きにさせることを大切にしています。逆に言えば嫌いにさせないということですね。

これは他のコーチ陣にも言っています。サッカーを嫌いになったら我々のせいだと。

――とにかくサッカーが好きで楽しいという気持ちをもって来てもらいたいと。

石原さま:はい、叱ったら子どもですからサッカーがすぐに嫌いになってしまいます。サッカーの技術に対して叱ることはしてはいけないと思っています。

危険なこと、人として間違っていることに対しては叱って、サッカーの技術に対して叱ることはありません。そこには成長がついてきませんから。

そして自信をつけさせるということが大事だと考えています。自信がつけば子どもたちは自分からやります。その自信をつけるために私たちがいるという考えでやっていますね。

――子どもたちに自信をつけるうえで何が必要になってきますか?

石原さま:否定せずにできたことを褒める、まずはこれだと思います。どんなかたちでも昨日より今日できたことを褒め続けることが大事です。それが子どもたちの自信を生むと思っています。

そして評価を与えるときには他と比べないことも徹底しています。誰かと誰かではなく、その子の昨日と今日を見るべきです。

――自信を育てるうえでサッカーから子どもたちが学ぶことはどんなことだと思いますか?

石原さま:勝つことで得られる自信がまずあります。そして「何かができるようになる」ときに得られる自信は大きいですね。

勝つことで得られる結果の自信と、「何かができるようになる」ときに得られる過程の自信。これをうまく嚙み合わせてあげるとより大きな自信になると思っています。

しかし、小学生年代では、過程の自信の育成に重心を置くべきと考えています。サッカーで培った「コツコツ努力すれば必ずできるようになる」という自信は、子ども達のその後に必ず生かされると思うのです。

――結果は確かに大事ですが、今の年代だからこそ過程はとても大事ですね。

石原さま:結果を褒めることも悪くはないのですが、それだけになってしまうと結果が出なかったときに諦めてしまいます。そうならないように過程を褒めつつ結果につなげていけるようになればいいなと思っています。

――子どもにサッカーを教える、とはサッカー以外のもっと大きくて大切なことを教えるということでもあると思います。その点で言うと大切にしていることはありますか?

石原さま:それこそドイツ遠征のときに言うのは、日本人を見ることが初めての人がいるかもしれない。その人にとっては君たちが日本人としての基準になるんだということを言っています。

ドイツに行って文化に触れて、人間としての幅も広げてほしいですね。

――この年代でそれが経験できるということは間違いなく大人になったときにサッカー以外でも役立つだろうと思います。

石原さま:そうですね。10日間、親から離れてみて、普段自分たちの親がどれだけ自分のためにやってくれているかが分かると思います。遠征の最後のほうはどの子どもたちも親の特にお母さんのありがたさを口にするようになります。

――こういった経験を子どもたちにはどんなふうに活かしてほしいですか?

石原さま:やはり市川FCでプレーしている彼らが新しい文化の担い手になっていくと思います。そのなかで理想を言えばどういう人の役に立つか、ということを考えられるようになってほしいです。

人の役に立つことを考える時、必ず同時に相手のことも考えています。一番大切なのは自分のことですが、同時に相手のことも考えられる、そういう大人になってほしいです。

自分も大切にするし相手も大切にすること。サッカーはこれがないと成立しないスポーツです。サッカーを通して、両方の大切さを当たり前に考えられる人になってくれたらいいなと願っています。

――今後、石原様の活動をどんな活動にしていきたいですか?

石原さま:今やっている活動を次の世代に引き継いでいきたいです。そのために持続可能な活動方法を考えていかなくてはならないと思います。

――石原様、本日はありがとうございました。