父とジョブズをルーツにプログラミングの世界へ
河本聖己さま
和歌山大学システム工学部に在学中。ソフトウェア工学専攻。(2025年時点)
2019年、文部科学省による官民協働海外留学支援制度、トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムにてアメリカ・シリコンバレーに留学。
2024年より、学生でありながらも東京大学大学院工学系研究科の松尾・岩澤研究室に教育PFインターン生として所属。
自分が設計した通りに機械が動くということがとにかく楽しかった
――トビタテ!留学JAPANでの留学先を教えてください。
河本さま:アメリカのシリコンバレーに行っていました。日本ではシリコンバレーという名前で浸透していますが、シリコンバレーはIT関連の企業が集まる都市の総称でして、正しい都市名で言うとサンノゼという地域になります。
――どういった目的でシリコンバレーを選んだのでしょうか?
河本さま:シリコンバレーはGoogleやAppleの本社があったりITの聖地として有名です。もともと小学生の頃にスティーブジョブズの本を読む機会がありまして。スティーブジョブズも自宅のガレージから起業が始まったりとか、アメリカではアイディアやパッションでなぜそんなにもビジネスが成長できるんだろう?と子供ながらにとても気になりました。
漠然と、そういったところをこの目で見てみたいという気持ちがあったんです。そんななかで高校のときにトビタテ!留学JAPANというものを知って、あの頃抱いたシリコンバレーへの想いを果たすべくこの場所を選びました。
それと、もともと小学生から父の影響でパソコンを触っていて、プログラミングも勉強したいと思っていたこともありました。
――ルーツがスティーブジョブズとのことですが、今でも影響されているところはありますか?
河本さま:はい、夢を大きくもつであったりとか、点と点が線で繋がるところだったりとか大学生でありながらいろんなフィールドで経験させてもらっています。その数々の経験が今に繋がっていくあたりはジョブズの影響を強く受けていると思います。
――小学生という年齢でパソコンを触った瞬間の衝撃や感動はありましたか?
河本さま:最初はワードやパワポで資料を作ったり、とにかく「楽しい」がありました。父親が自営業で仕事をしていて、会社のシステムを外部に任せていました。それではコストがかかるので「聖己がやってくれたらな~」とポロっと言うことがあったんです。(笑)それをきっかけにメールやサーバのシステムを自分で調べながら組んだりしていました。自分が設計した通りに機械が動くということがとにかく楽しかったですね。
――ゲームにはいかずパソコンに行ったんですね。
河本さま:そうなんです。珍しいとは思うんですけど当時も今もゲームは全くやらないです。プレイするよりも作るほうがとにかく楽しくて。
――ではプログラミングを勉強するなんてその延長くらいの勢いだったのでは?
河本さま:システムを組んでいったり、提供されているシステムに手を加えるとなれば当然プログラムの知識が必要になってくるので独学で作ったり壊したりを繰り返していました。
とにかく行動して手を動かして、自分のやりたいことを実現する
――そんな少年がシリコンバレーに留学するわけですが、現地で印象的なエピソードがあれば教えてください。
河本さま:やっぱり現地にはGoogleの本社があるのでそこを見てみたいという想いに駆られました。そこでLinkedInのアカウントを作って現地の社員さんに何十件ものメールを送りました。帰国の前日にやっとアポがとれてGoogleの本社に招待していただいたことが印象的です。
そこでインタビューをさせてもらって、いろんな話を聞くことができてとても感動しました。とにかく行動して手を動かして、自分のやりたいことを実現する力みたいなものが身についたと思います。
――その方からはいろんなお話を聞いたと思うのですが、そのなかでも学びになったことは何ですか?
河本さま:アメリカの働き方がすごく面白いなと思いました。アメリカは成果主義なところがあって、成果さえ出していればあとは自由、みたいなところがあるんです。そのなかで意外と仕事とプライベートのメリハリがある意味でないんだなと感じました。 仕事の途中で子供を迎えに行って、家に送り届けたらまた会社に戻ってきて仕事をするような人もいます。それが現地ではライフワークになっていて、日本人のようにはっきりとした境目はなくてそれがすごく新鮮でした。
――河本様ご自身の1日の流れはどのようなものだったのでしょうか?
河本さま:午前中には学校に行って午後にはシリコンバレーの企業にインタビューしに行ったりしていました。ブロックチェーンの知識だったり、プログラミング言語をつかってものを作ってみたり、先生とマンツーマンだったのでかなり多くの知識を学ぶことができました。
――クラスではなく1対1だったんですね。
河本さま:はい、ちょうど夏休み期間に行ったのでクラスの生徒は私だけでした。大変ではありますが聞きたいことは全部聞けるのでラッキーでしたし、英語力もかなり上がったと思います。
――現地で一番学びたかったことは?
河本さま:プログラミングです。今の時代、ネットや書籍も充実してきていますので、単にプログラミングだけ学ぼうと思えばわざわざ海外に行かなくても良いかもしれません。でも、ITの聖地で学ぶという経験は当時高校生の私にとって非常に貴重な経験で意義深いことでした。
――そうですね。もちろん日本にいても学べることはありますが、確かにITの聖地で学ぶことは大きな意味があると思います。そのぶん大変なこともあったのでは?
河本さま:コミュニケーション面で最初は苦労しました。そもそも文化が違ううえに生活スタイルも違ったのでホストファミリーの方と意思疎通がはかれないシーンがあったんです。でも、なるべく朝は今日のスケジュールを伝えるようにしたりだとか、帰ってきてからその日にあったことを話すようにして、 たくさんコミュニケーションをとるようにしていました。当たり前のことではあるんですけど、そういう会話のなかでお互い見えてくることがたくさんあるなと思いました。
――確かに普通のことかもしれませんが、日本ではそういったことがないことも当たり前の家庭が多いと思います。
河本さま:やはり午前の学校での授業や午後の企業リサーチだったり、そちらに重きを置いていたところはあったので。せっかく留学に行ったのに現地の方とのコミュニケーション、ふれあいといったところを疎かにしていたと気づかされる瞬間でもありました。
居場所は学校だけではない
――留学に行ったあと、行く前で変わったことはありますか?
河本さま:もともと自分をアピールすることが苦手で、パッとしない幼少期を過ごしていました。何をやってもそこそこでうまくいかない。それがすごく悩みになった時期もあります。 そんななかで高校生になってトビタテ!に出会って、全国の高校生と出会うことが増えました。そのなかには学校の勉強以外に夢中になっている方たちばかりで、小学校や中学校よりも広い世界を知ることになりました。
そういう経験から自分の好きなことを極めていいんだ、居場所って学校だけではないんだということに気付いて精神的に大きく変化したと思います。だからこそ好きなことやチャレンジしてみたいことに対して積極的でポジティブになれました。好きなことを好きだと言う、人に発信していくことができるようにもなりましたね。
トビタテ!は留学の制度ではありますが、トビタテ!で同じ志をもった仲間ができたことやトビタテ!という居場所ができたことは自分にとって貴重だったなと感じます。
――トビタテ!でできた仲間は全国各地にいらっしゃるということですか?
河本さま:はい、高校生の段階で社会でアクションを起こそうと起業している人がいたり、若者の政治参画を推進しようとしている方など本当に多種多様な方がいます。あとはトイレの研究をしている方もいます。(笑)そういった普通に生きていたら出会えない面白い人に出会えます。
――そういった留学経験から子供たちにもプログラミングを教えていらっしゃると思います。それはどういった経緯なのでしょうか?
河本さま:自分自身、今まで受けてきた学校教育に反省点があります。大学に入って教育について調べていた時期があり、教育というものは人を形成する最も基本的で重要な役割を担っていることが分かりました。プログラムやシステムをやってきた人間として、それを教育にも活かすことができるのではないかと考えたんです。 それがきっかけで大学1年のときにEdTech(テクノロジーを駆使した学習支援技術)のプログラムを立ち上げました。
――そちらはどんな活動内容なのでしょうか?
河本さま:自治体や教育委員会と連携しながら各学校の教育DXの推進だったり、先生向けの研修プログラムの作成、学校に出向いて直接プログラミングの授業をしたこともあります。
背景としては2019年に文部科学省がGIGAスクール構想として、全国の小中学校にひとり一台端末というかたちで生徒にタブレット端末を支給しています。現場の先生方も非常に努力されていますが、なかなか上手く活用できていないのが現状です。 プログラミング教育に関しても、全くやってこなかったところに急に現れるかたちになっているので、学校の先生も一から勉強しなくてはいけなくて大変だと思います。そういったところに我々のノウハウや技術者視点でプログラミング教育を提供していきたいですね。
――子供たちにプログラミングを教えていくうえでどんなことが重要だと感じますか?
河本さま:間違っていいよ、と伝えることです。テストは間違えば減点されてしまいますが、プログラミングは間違ってもまた作ればいい。プログラムは仮想の環境で動作するものですから、何度でも作って壊すことが出来ます。 だからこそどんどん手を使って、動かして、作ってみていいよと伝えています。
最近の子供たちは「間違える」ことに対して恐れがあるように感じます。そのせいで手が動かなかったりとか、手を動かして試すという感覚が身についていないのかなと感じます。プログラミングを通して普段の授業や生活でも試行錯誤をして試してみる感覚を身に着けてほしいなと思っています。
アレルギーを起こさずにとりあえず使ってみてほしい
――プログラミングを学ぶ、AIを使うことの重要性はどこにあると考えていますか?
河本さま:生成AIを使わないと生き残れない世界になっていくと思います。ツールとして使いこなせるということが身についていないと技術の進化に取り残されていってしまいます。使うと使わないとで仕事のスピードに差が出てきていて、この差はこれからもっと大きくなっていくと思います。
とにかく使うこと、そしてこのツールをこういうことに使えそうだな、と想像しながら使うことが重要です。AIの性能が上がっていても人間が「考える」という行動は必要になってきます。あくまで人間を手助けしてくれるツールとして活用することが大切だと思います。
――最後にこれからプログラミングやAIを学ぶ方、現在学んでいる方にメッセージがあればお願いします。
河本さま:成長のスピードが早いゆえにもうついていけない、と思ってる人が多いと思います。でも、全然そんなことありません。手を動かして使ってみることで見えてくることはたくさんあるので、アレルギーを起こさずにとりあえず使ってみてほしいです。そこから何でこうなってるんだろう? という視点をもってみると技術に対してアレルギーを起こすことなく向き合えるんじゃないかと思います。
――河本様、本日はありがとうございました。
文部科学省 トビタテ!留学JAPANとは
トビタテ!留学JAPANは、文部科学省がオールジャパンで取り組む留学促進キャンペーンです。民間寄附による返済不要の奨学金を給付する官民協働海外留学支援制度「新・日本代表プログラム」をフラッグシップ事業として展開しています。 第2ステージ(2023~2027年度)においては5年間で高校生、大学生等5,000人以上の留学支援を目指しています。私たち外貨両替ドルユーロはこの活動を応援しています。