公益財団法人ジョイセフ 栗林桃乃さま

「女性」という理由で命を失う人がいる。誰もが健康で自分らしく生きられる社会にしたい

栗林桃乃さま

栗林桃乃さま

公益財団法人ジョイセフで広報、マーケティングを担当。学生時代にジョイセフのマンスリーサポーターとして支援をはじめ、支援者としてザンビアでの活動を視察。2022年に民間企業からジョイセフに転職後、日本国内の市民連携プロジェクトである「思い出のランドセルギフト」や「ホワイトリボンラン」を担当し、世界の女性の健康を守るためにセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の推進に力を入れている。

女性という理由で過酷な状況下を生きている人がいる

――現在の主な活動について教えてください。

栗林さま:ジョイセフでは多くの活動をしているのですが、各プロジェクトで行われている活動内容を日本の皆さまに知っていただくために広報、マーケティングを担当しております。

――大変多くの活動をされていらっしゃると思いますが、そのなかでも中心となっているプロジェクトは何ですか?

栗林さま:情報発信自体は活動全般についてやっておりますが、2022年の入職からアフガニスタンでの女性の初等教育、就学を促すために、日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンの子どもたちに送る「思い出のランドセルギフト」の活動に関わっています。

また、ホワイトリボンランという毎年3月に行っているチャリティーイベントも担当しております。

――ジョイセフの活動地であるザンビアにも行かれた経験があると思います。そちらではどのようなプロジェクトで現地に行かれたのですか?

栗林さま:当時は大学生だったのですが、ザンビアでは主に妊産婦死亡の問題を解決するためのプロジェクトを見てきました。

特に、ザンビアの若者で、月経や意図しない妊娠が理由で学校に行けなくなってしまったり、未熟な体で妊娠をし、出産や中絶で命を失うリスクを抱えてしまう問題があります。

保健医療サービスを受けられる環境が整っていないので、月経・妊娠・出産に関する正しい知識を得る機会がなかったり、保健施設が近隣になく、助産師など保健医療従事者の介助のもとで安全な出産ができない、自宅出産を選ばざるを得ないという現状がありました。

そういった環境の中で、安全に出産を迎えられる保健施設へのアクセスの課題を解決するための活動や、地域の人々、特に若い世代への性と生殖に関する正しい知識や情報を伝える活動が行われていました。

ただ現地の方々に伝えるだけでなく、その後もザンビアの若者同士が正しい知識と情報を伝え合えるような若者啓発人材「ピアエデュケーター」の育成や若者たちのための施設を作り、持続的に地域の人たちの力で人々の健康を守ることができるような環境づくりの現場を見せていただきました。

ザンビア視察時の様子

――そういった「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」を、初めて知ったのはそのときでしたか?

栗林さま:はい、大学時代は経済学部だったのですが、今でもお世話になっている恩師が開発経済学をテーマに授業やゼミ活動を行っていました。

開発経済学は、開発途上国の人々の暮らしをより良くするためにどう経済発展を促すか、社会的な課題をどう解決していけばいいのかというものです。

恩師のゼミに加入し、先輩方の発信を学内で見て、女性であるという理由で問題を抱えている人がいて、支援を必要としている人と支援をしている団体があることを知りました。それが最初のジョイセフとの出会いです。

なかでも途上国では妊娠・出産で亡くなる女性がたくさんいることを知ったのがきっかけで、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに出会いました。

――その時、どんな印象を持ちましたか?

栗林さま:当時は正直正しく理解できていなかったと思います。その言葉を聞いたときは理解することが難しくて、漠然と途上国の女性が抱える課題の何かなんだろうなという理解でした。とにかく漠然としていて難しいことだなという印象でしたね。

――確かに言葉は少し難しいですし、途上国の問題となると複雑な印象はあります。それでもなぜこの課題を追えたのでしょうか?

栗林さま:振り返って考えてみると、自分自身も女性であること、これまでの生活の中で女性でよかったことも、女性であるがゆえに生きづらいと感じる経験もありました。家族の中では「長女だから」、学校生活の中では「女の子だから」というフレームの中で過ごさないといけない環境に置かれていたこともありました。

その一方で、高校時代は女子校に通っていたのですが、学校生活のなかで女性だから何かができない、しなくていいということがない環境に身を置いたこともありました。

例えば女子生徒は重いものは持たなくていいとか、リーダーや力仕事は男子生徒の役目だとか、「女性だから」というジェンダーによる役割分担や偏見がない中で生活してきた3年間でした。女子だけだったので、力仕事も、リーダー役も、シンプルに「誰がやるか」を決めるだけだったのです。

そういったジェンダーによる偏見も制約もない高校生活を経験した後で、大学に進学し、「女性」という理由で学校に行けなかったり、妊娠・出産が理由で命が失われている人が世界には存在することを知りました。

海の向こうには「女性」というだけで過酷な状況下を生きている人がいるということがショックでした。自分では選べない、生まれながらの「性」が理由で命のリスクがある、生きづらい、そんなことあるのか。どうにかしたい、という想いがどこかでうまれたからだと思います。

――新しいフレームを発見してから新しい価値観がうまれたような感覚でしょうか?

栗林さま:女子高でのジェンダーフリーな生活の経験と、大学でのジェンダー課題を勉強した経験から、男性、女性という前にみんなひとりの人間である、という価値観は培われたと思います。

支援者からジョイセフで働く側へ

ホワイトリボンプロジェクト

――大学時代からジョイセフを通して支援されていたとのことですが、当時はどんな想いで関わっていましたか?

栗林さま:大学3年のときからマンスリーサポーターに入って、毎月バイト代から1000円を寄付するということをしていました。

今思えば一種の承認欲求的な側面もあったと思いますが、とにかく課題解決のために、そういった活動に関わっているという「かたち」が欲しかった部分はありました。

そこで何ができるかと考えた時にジョイセフのマンスリーサポーターという関わり方を始めました。

――支援者という立場から、「ここで働く側になりたい」と思うようになった理由を教えてください。

栗林さま:先ほどのマンスリーサポーターを始めたあとに、ザンビアへ視察に連れて行っていただきました。

この視察が私のなかで本当に衝撃的すぎて、新卒でジョイセフに雇ってもらえないか?と当時アテンドしてくださった職員さんに聞いたくらいです。ただ、当時は自分に何ができるかと考えた時に、専門知識もスキルもなかったので、マンスリーサポーターとして支援を続けるということが最善でした。

大学卒業後は民間企業に就職し、ホテリエとして働きました。そこで広報の仕事も経験して、そろそろ次のステップへと考えていたところにジョイセフの職員の方からご連絡をいただきました。

その内容がジョイセフの活動を国内に広め、支援を募れる人材を探している、というもので。

ザンビア視察時の様子

――ちょうどホテリエで携わっていた広報という仕事がここで活きてくるのですね。

栗林さま:はい。そのあとは求人に応募して面接をしてという流れになりました。ずっと想いをもっていたなかでこういったきっかけがあったので、本当にご縁だなと思います。

――異なる分野からの転職ではあったものの一大決心というよりは自然な流れといったところでしょうか?

栗林さま:そうですね。女性の支援に関わる仕事ができたらという想いはずっともっていましたし、ジョイセフに入れなくても、自分が働いて得たお金を寄付し続けられる取り組みもできたらいいなと感じていました。

こうしていろいろ考えている中でのご縁だったので、私にとってはこれ以上ないきっかけでしたね。

ランドセルを通してアフガニスタンの女の子たちに教育を

思い出のランドセルギフト

――最初にお伺いした思い出のランドセルギフトについても教えていただけますか。

栗林さま:アフガニスタンの子どもたち、特に女の子の初等教育へのアクセスを支援するために、日本で役目を終えたランドセルを寄贈することで、教育の大切さを子どもたちにも大人たちにも伝え、小学校に通うきっかけをつくる活動をしております。

――思い出のランドセルギフトは、どのような社会課題を解決しようとしているのでしょうか?

栗林さま:現在アフガニスタンの女性は過酷な状況にあります。

タリバン政権への政変以降、女性は中学校以上に進学できない、就労にも制約があり、家主(父親や夫)の同伴がないと外出できないなど厳しい現状があります。

小学校までは許されていますが、貧困、治安の悪さや女性の教員不足など女の子が安心して教育を受けられない環境が原因でその小学校にすら行けない子どももいます。

学ぶこともできなければ働くこともできない。そういった環境を生きる女性たちや女の子たちの生きる道には制約が多く、多くの女の子は、現在家にいるしかないので、12歳~14歳という若い年齢で結婚するという女の子も多いのが現状です。

10代で結婚し、未熟な身体で妊娠をすること、それによって健康への影響が出ることは明らかです。文字の読み書きができるかどうかで、健康や自身の体に関して取得する情報量は大きく変わってきます。

教育を受けることで文字の読み書きを習得し、健康で自分らしく生きていくために必要な情報を得る、自分自身が望む夢を描ける環境を実現しようとしています。

――そうなってくると当然女性だけの問題ではなくなってきますよね。

栗林さま:もちろんです。この思い出のランドセルギフトは現地の女の子だけでなく男の子にも配っています。男の子でも女の子でも当たり前に教育を受けられることが大切だと思っています。

子どもたちが大人になった時にも、男の子だから、女の子だから、学校に行けない、行かなくてよいという文化が継承されてしまわないよう全員に教育の大切さを伝え、意識と行動の変容を促していきたいです。

――文化の違いでは済まされない違いがあると思います。この難しい課題にどう取り組めばこの大きな課題を乗り越えられると感じていますか?

栗林さま:国を超えた連帯が必要だと思っています。今のアフガニスタンの状況は国民全員が望んで陥った状況ではありません。

だからこそアフガニスタンの国民も一生懸命、状況を変えようと声をあげています。そこで地球で起きている問題として、より多くの人がこの状況に向き合い、国を超えて日本をはじめ国際社会からの声をどれだけ多く届けられるか、が重要だと思っています。

思い出のランドセルギフトでは毎年12,000個〜14,000個のランドセルを届けているので、少なくともアフガニスタンの地域社会に日本からはランドセルを通じて1万件以上の応援の声が届いていることになります。

日本から海を超えて、アフガニスタンの子どもたちやその家族には、応援の声が届いており、実際にランドセルを受け取った子どもたちの中には、ランドセルを励みに学びを続けたという人もいます。

こういった報告を聞くと、アフガニスタンの教育への意識や環境をより良く変化させている手段のひとつになっていると思っています。

思い出のランドセルギフト

――単純な数字の話になってしまって申し訳ないのですが、毎年ランドセルを12,000個〜14,000個届けているということですが、これは足りているのでしょうか。

栗林さま:実際に私たちが活動しているのはアフガニスタン東部のナンガルハール州というエリアなのですが、毎年新入学を迎える子どもは年間70,000人いるとされています。

本当はその70,000人全員に行き渡ればいいのですが、今は毎年3か所くらいの地域を回って、小学校1年生~3年生の子どもたちに配付して、ランドセルをもらえるからこの日は小学校に行こうとなるかもしれないし、ランドセルがあるから6年間頑張って学び続けようと子どもたちにも、その家族にも思ってもらえたらという想いです。

――実際に現場(特に海外)で活動する中で、印象に残っている出来事や出会いはありましたか?

栗林さま:国内で言えば日本人にとってランドセルはやはり特別なものだという印象があります。家族が買ってくれて毎日それを背負って学校に行っていますからランドセルへの思い入れは各家庭にあると思います。

そのランドセルを私が直接お預かりするイベントに参加した時に、泣きながらランドセルを渡してくださったお母様がいらっしゃいました。

それを見た時に、大切にしているものだからこそ次にまた使ってもらえる、役立てる場所があるならという思いで託していただいているのだなと感じました。

また、別の方からもこのような、課題意識や想いはあっても個人ではできない取り組みで、ランドセルを預かっていただきありがとうございます、と言っていただけたことも嬉しかったです。

私たちは団体として本来はご支援をお願いする立場にあって、私たちがご支援いただきありがとうございますとお伝えすべき立場であるのに、支援者の方からありがとうと言っていただいたときには、嬉しかったのと同時に、驚きました。

――それだけ日本の皆さんにとっても、ランドセルというものが特別なものだったということですね。

栗林さま:本当にそうだと思います。ランドセルと一緒に日本の子どもたちが成長していく姿も見ていると思うので。

あとは、アフガニスタン現地のことで言うと実際にランドセルを受け取った女性にインタビューをするという貴重な機会をいただきました。

その方にとってランドセルはビッグサプライズだったと話していて、本当に嬉しそうに話をしてくれました。そして、こんなに素敵なプレゼントをもらったからこそ、一生懸命勉強しようと思ったということも話されていました。

こうして誰かに助けてもらう経験をしたからこそ、自分も誰かを助けたいという想いをもって助産師になったそうです。

自分たちの活動が、アフガニスタン現地の人の心を動かしたのだと実感し本当に感激しました。

――まさに想いが通じてかたちになった瞬間ですよね。

栗林さま:はい、さらにジョイセフはランドセルの活動と母子保健クリニックという女性と子どもたちのためのクリニックの運営支援をやっています。

そのクリニックで先ほどの助産師さんがパートさんとして働いていることも知って、めぐりめぐってジョイセフに関わってくれており、素晴らしいご縁も感じています。

すべての人に健康と福祉を

ザンビア現地の様子

――プロジェクトに取り組む中で、「これは大切にしたい」と感じていることは何ですか?

栗林さま:支援するという姿勢よりも、フラットにパートナーとして現地の方々と共創していくことを大切にしています。

大学時代にザンビアに行った時には、日本で十分な教育環境のある自分よりSRHRに関して、性や生殖のしくみなどの知識があって発信力のある同世代の人たちがたくさんいて、現地にはベンバ語という母国語がありますが、第二言語である英語でコミュニケーションをとってくれる人もいました。

ザンビアの若者たちは貧困などの事情で学校に行けていない人も多い中で、自分よりも英語が堪能でした。生きるために必死に学び、知識をつけていく姿を見て、私は何のために学校に行っているんだと反省したのと同時に、この人たちと一緒に活動したいという想いが芽生えました。

――そういった現状を実際に目で見て、どんな心境の変化がありましたか?

栗林さま:子どもに教育を受けさせない大人や、幼い子どもを早期に結婚をさせる親を単に責めるのではなく、人々をそういう意識、判断にさせてしまう環境や社会文化にも変化を起こすことが必要なのだなと気付きました。

――こうした課題に対して、ジョイセフとして今後どのような取り組みを進めようとしていますか?

栗林さま:引き続きすべての人がSRHRを享受でき、自分らしく健康に生きられる社会を目指して活動していきます。2030年までのSDGsで言うと、目標3番「すべての人に健康と福祉を」、目標5番「ジェンダー平等を実現しよう」を中心にSRHRに関する課題解決のために取り組んでいきたいです。

例えば目標3番には達成要件がいくつか設定されていて、妊産婦死亡を出生10万人あたり70人未満に減らすという項目があります。2030年までに実現できるようジョイセフとして貢献していくつもりです。

そのためには、さまざまなリスクから予防をする観点や、これからの社会を変容させていく観点で、若い世代へのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)に関する情報を広める活動も必要だと思います。

日本を含む世界で、SRHRの重要性と性と生殖に関する正しい知識を広める活動にも力を入れ、性の話題に対するタブー視や古くからの文化的慣習のある人々の意識や行動の変化、社会の変容を促し、課題の根本的なところにアプローチを続けていきます。

――日本に暮らす人たちに海外の現状から伝えたいことは何でしょうか?

栗林さま:まずは世界で、そして世界の中の日本で、何が起きているかを知ってほしいと思っています。ジョイセフが取り組む課題、その先にいる人たちのことを知っていただけたら嬉しいです。

そこから、自分自身や大切な人のSRHRを守るために何かしたいと思っていただけたら、これ以上嬉しいことはないと思っています。

――ジョイセフでの活動を通して、今後どのようなことに挑戦していきたいと考えていますか?

栗林さま:自分自身の心と身体について、また自分や大切な人のSRHRを守るための多様な選択肢を知らなかったこと、苦しんだり困ったりする人が1人でも減らせて、誰もが行きやすい社会になったらいいなと思っています。

日本国内でもセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)に関する情報は不足していて、私自身も最初は情報も知識もありませんでした。

それでもジョイセフでの活動を通して理解を深め、一気に自分事になったと思っていますし、自分自身も健康に自分らしく生きる知識とスキルを得ることができ、性にとらわれず、私が私で生きていくことを、もっと体現したいと思えるようになりました。

性と生殖に関する情報はSRHRの中で「知る」権利が保障されていて、知ることで選択肢が広がることが分かれば、自身の健康を守ることや自分が描く生き方を実現することに活かすことができると思います。

だからこそセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)という健康の概念、基本的人権があるということを広く知っていただきたいなと思っています。

――最後に、この記事を読む人(特に若者や支援を考えている人)へメッセージをお願いします。

栗林さま:若い世代の方々に対しては、何かのきっかけが、いつか自分のやりたいことに変化し、実現に繋がる可能性があるということを伝えたいです。私の場合は大学時代のきっかけが、今こうしてジョイセフで働くことに繋がっています。

今学んでいること、置かれている環境はいつかやりたいことや実現したいことに繋がると思うので、今経験できることをたくさん楽しんで、夢を描き続けてほしいなと思います。

また、ジョイセフの活動を知っていただくことでSRHRを知り、自分の心と体の健康を守るにはどうしたらいいかと考えるきっかけになったら嬉しいです。

そしてご支援をご検討くださっている方に関しては、私たちと一緒に手を取り合って、誰もが健康で生きやすい社会のために、世界で起きている課題に向き合っていただけたら嬉しいです。

社会全体が連帯することが大きな力になり、必ずすべての人がよりよく生きられる社会にできる、そんな社会課題を扱っているので、たくさんの方々の力が必要です。

是非、私たちと想いやビジョンを共感しあい、よりよい社会をつくるために、一緒に活動ができたら嬉しく思います。是非ご支援ください。

――栗林様、本日はありがとうございました。

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